【心の旅(フィクション)】 怒りと憎しみを手放せない男
くじらの潜水艦がなかなか来ないから一週間も浜辺で待ち続けているという男性と出会いました。
背中に何か紙が貼っていました。
『怒りと憎しみを手放せない男』
と、紙には書いてありました。
なるほど話してみると嫌いな上司への怒り憎しみを延々と話し続けます。彼と話した誰かがイタズラで貼っていったのでしょう。
「あなたはよっぽどその上司さんのことが大切なんですね~」
「な・・なにを言うんだあんた!大切なわけないだろ!あんなやつ!」
「だってその上司さんのいないときでもあなたは上司さんの為に自分の時間を使っていますよね。延々と上司さんのことを想い続けているなんて凄いですよ。自分の家族だとしても延々と想い続けることは難しいものですよ」
「そう言われると確かに妙な気分だ。あんなやつの為に俺は自分の大切な時間を無駄に使っていたのか・・・・」
「かつては僕もそうでした。怒りと憎しみを手放せなかったがためにどれだけの時間を無駄にしたか。しかも怒りと憎しみの感情に支配されていると良くないことがどんどん起きるし体も不調がどんどん出てきて大変でした。今はそういった無駄な時間をなくして、そのぶん自分の好きなことが出来るようになりました」
「確かにそうだな!いい事聞いた。恩にきるよ」
それから彼は目を輝かせながら自分の夢を語ってくれました。もうまるで別人です。
僕はそっと背中の紙をはがしておきました。
「なんだ、こんなとこにいたのかい」
背後から聞き慣れた声がしました。
こ、この声は・・・あっ、フクロウおばさんだ。
「遅いじゃないか、くじらの潜水艦~」
「えええええええええええええええっ!!くじらの潜水艦ってフクロウおばさんですか!?」
フクロウおばさんは彼をおんぶして海へ入っていきます・・・・。
「ほっほっほっ。あたしのことを理解するにはまだ2年早いよ」
「2年でわかるんですか・・・はやっ・・・」
彼と話せたことで怒りと憎しみを手放した幸せを改めて実感することができました。
怒りと憎しみを手放せなかった男さん、ありがとう!